金庫株特例は相続税対策に有効か

金庫株=会社が自社の株を自分で持つこと。オーナー創業者が自分の株式を会社に買い取ってもらう場合、通常であれば「みなし配当」となって総合課税(最大55%?)の税金が取られるところ、相続発生から3年10ヶ月以内であればこの税率を20%に抑えられるという特例がある。結構知らない税理士も多いらしいので注意。

創業者ががっつり株を持ったまま死亡すると、その株式は家族に相続されることになるが、税務署が勝手にその株式の価値を計算して相続税が課されることになる。相続税は6億円を超えると55%にものぼるが、黒字の会社を何年も経営していたら純資産だけでもそのぐらいの金額にはいってしまうことも少なくない。

たとえば家族が純資産10億円以上の会社の株式を相続した場合、その株を現金化できないのに数億円の相続税を支払わないといけない。生命保険だけで支払えるという家庭も少ないだろう。こうなると相続税支払い期限の3年10ヶ月以内に会社の株式を適当な会社にM&Aで売却せざるを得ない。残された従業員にとっては(ただでさえ経営トップが死んで不安な中で)知らない会社の子会社になり会社を別物にされてしまう、これもまた迷惑な話。

つくづく創業者は死んではいけない(とはいえ長期的には致死率100%)。ちなみに税金は自己破産しても消えないので家族は下手したら一生この税金を払うために働く羽目になるかもしれない。

で、こうなったら家族は会社にこの株式を買い取ってもらえば良い(会社が買い取った自社の株式のことを「金庫株」と言う)。会社の株価(というか時価総額)が10億円あったとして、ちゃんと計算すると多分その相続税は3億〜4億ぐらいになると思うけど(家族構成などにもよる)、会社の現預金で(場合によって借金してもらって)会社に株式を買い取ってもらう。

創業者は大体の場合大した現金を持ってない(資産のほとんどが自社株、あとは不動産とかになってることも多い)が、会社にはある。生命保険も受取人名義を会社にして加入していることが多い。銀行と付き合いのあるぶん借入も有利。これら合わせると相続税額ぐらいの現金で会社に株式を(全部でなくても)買い取ってもらうことはなんとかなるケースが多そうだ。

仮に上記のケースで全株式の50%に当たる5億円分の株式を会社に買い取ってもらう場合、その5億円には金庫株特例で20%程度しか税金がかからないので、4億円程度が家族の手元に残り、これで相続税を払うことができる。

僕が考える範囲ではこの特例の活用に大きなデメリットは見当たらない。この他の相続税対策では、

・会社の株価を下げるためにはてしない物量の不動産を購入しないといけない(+運用しなければならない)とか
・事業承継税制を使って経営権どころか財産権まで全て手放さないといけないとか
・相続税対策でめちゃくちゃな金額の保険に加入しなければならない(+保険料を支払わなければならない)とか
・早々に子どもに株を譲渡しておくそのために銀行から億円単位の借り入れをしなければならないとか

だいぶハードなものが多いが、その多くには「対策を始めたら後戻りができない」というデメリットがある。金庫株特例を使う場合にはこのデメリットがない。相続発生(創業者死亡)はいつ起こるかわからないので、起きた後に税理士と相談しながら対策すれば良い。

唯一のデメリットと言えば、創業者にとっては自分の死亡後の話なので、ちゃんと実行されるかわからないというところかもしれない。遺言書を残すとか家族に説明しておくとか、できることはちゃんとやっておきたい。

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