経営者の相続税対策については(相続対策というとだいぶ幅が広がってしまうのでここでは相続「税」対策に絞る)、①相続税を減らす=相続財産の評価額を落とすという方向性と、②発生してしまう相続税を払うための現金の準備という方向性の、大きく2つのテーマがある。と思う。
会社が順調に成長すれば必ず①の「相続税評価額をどう下げるか」というテーマからは逃れられないしそっちの対策も多々あるが、まずは「現時点で発生しうる相続税がいくらなのかを計算し、その相続税の準備をどうするか」を考えることから着手するのも大事。考え始める年齢にもよるけど、相続税対策には数年単位で時間がかかる+暦年贈与は7年分は遡られてしまうことなんか考えると、早めに片付けておくに越したことはない。ということで僕は40代から一通り勉強して相続対策も相続税対策もしているわけだけど(まだ途中)、まずは一旦「自分に何かが起きた際に相続税はいくら発生するのか」を簡単に計算することにした。
多くの創業経営者は、資産のほとんどが株式らしい。現金や不動産など他の相続財産をさほど持っておらず、非上場であれば株式も換金しづらい、というのが非上場企業の創業経営者の相続問題あるある。僕も状況はあまり変わらずだが、専門家に会社の株価を計算してもらったところ、個人で持っている現金資産を合わせての相続税は一旦3億円強ということがわかった。
ちなみに、会社の株価算定はちゃんとした専門家に依頼することをお勧めしたいが、取引のある銀行にこの手の話を持っていくと、提携先の信託銀行の相続系に詳しい奴を連れてきてくれてこのあたりの計算は無料でやってもらえるのでそうするのが良い。銀行はこの後我々に不動産を買わせる・贈与税や株資金譲渡益に対する課税を融資で支援するなどビジネスが控えているので、喜んで無料でやってくれる。会社が10年20年と順調に成長するシミュレーション付きでやってくれるが、そのシミュレーションが本当にそうなるかどうかはむしろこちらの方がよくわかっているので話半分だ。
で、この3億円強という相続税を、保険で支払おうとすると掛け金(月々・年間の保険料支払い)がどうなるかということだが、保険にもよるが平気で年間1000万円とか超えてくる可能性もある。こんなに保険に突っ込むのもアホらしい上、税引後でそんな保険料を支払えるような高額の役員報酬を設定するのももっとアホらしいのでちょっとやってられない。
そこで金庫株特例を使う。創業者が自分の持っている株式をその会社自身に買い取らせると、通常であればみなし配当として譲渡益が総合課税の対象となる(50%以上が税金で取られる)ことになるが、相続開始から3年10ヶ月以内であれば20%にその税率を抑えてくれるというもの。だから3億円の相続税がかかった際、譲渡益には20%が課税されることを加味した上で、3.75億円の株式を遺族は会社に買い取って貰えば良い。3.75億円の20%を差し引くとちょうど3億。
もちろん注意点がいくつもあるんだが、そもそもこの3.75億円という現金を会社が持っていないとアウト。なので相続税が3億円なら最低でも3.75億円の現金で会社が株式を買い取れるよう、被保険人=創業者、契約者・受取人=会社という保険にこの規模で入っておく必要がある。
また、金庫株には上限があり、利益剰余金(BSの右下)の額が上限いっぱいとなる。このため、現金で十分金庫株作れるぜ!(株式買い取れるぜ!)という会社であっても、ここが薄いと(考えづらいが)まずいので、その意味でも生命保険には加入しておいた方が良い。
なお、僕の場合は資産管理会社を経由して事業会社の株式を保有しており、資産管理会社では生命保険に加入しておらず、事業会社で10億円近い生命保険に加入していた。この生命保険が実行されると会社に保険金が入り一気に会社の時価総額=相続財産が膨らんで相続税がさらに大変なことになるため、行使は全てが終わった後にゆっくりやってもらうことが大事。死んだ瞬間にいきなり生命保険の請求をしてしまうと対策が水の泡となる。
ということで、資産管理会社で保険に加入(資産管理会社がなければ普通に事業会社で加入すれば良い)しておき、金庫株として自社株を創業者の遺族から買い取れるような規模の(=遺族が相続税を払えるだけの現金を用意できる)保険に入っておくことをお勧めする。
そしてこれは上記の通り個人で加入すると保険料負担だけで半端じゃないため会社で加入するわけだが、会社で加入するのももちろん負担が半端ではない。そして、この後様々行う相続税対策(カブトク外しとか不動産購入による評価額の圧縮など)により、もしくはその後の赤字などにより、その規模の保険が必要なくなる可能性も高い。だから、掛け捨てではなく積立でちゃんと運用される性質の保険に入っておくこと。対策が進み相続税評価額を圧縮することができたら、保険を一部もしくは全部解約してしまえば良いし、会社が予定以上に儲かってしまったら保険を追加契約すれば良い。
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